fc2ブログ
 

不死議堂 1 ・・・赤い爪の誘い

不死議堂 1 ・・・赤い爪の誘い

この世は肉体的にも精神的にも圧力を感じ息が詰まる

そして俺は死に取り憑かれている

自ら命を断とう、そればかりを考える

死は足音も立てず心の隅から忍び寄る

漆のような艶やかな闇からこちらを見つめている

それは一瞬の美しさが漂う

そして視線に凍てついた時、その瞬間は訪れる

死に対しての追求、それが俺にとって唯一、生きている証ともいえる

生きている証・・・必要のない証・・・なんとも歯痒い気持ちになる




いつも通勤で通る坂を下って行った

坂道の傾斜に足が追い付かない

まるでブリキのおもちゃのようにしどろもどろと歩を進めた時

見過ごすようなとても細い脇道があった

何年もこの坂を行き来しているのに気が付かなかった

俺はその脇道に誘われる様に迷い込む

その道は蛇のようにうねうねと曲がりくねり五感がマヒする

そうした時、一軒の古ぼけた店が目に付いた

誘われるようにドアの小窓から中を覗く

奥に一人の老婆が居た

表情は影で見えないが煙草を挟んだ指の爪が真っ赤に染められていた

紫煙を吐いたと同時にその赤く染まった指先が手招きをした




老婆はカウンターの奥に座り表情までは見えない

只々、紫煙の中、真っ赤な指先がゆらゆらと踊っていた

老婆はしわがれた声でこう言った

「死に囚われし主・・・これを・・・授けよう・・・」

「代金は主の勘定に任せよう・・・後払いでもかまわんぞ」

そういうと指先でつまんだ小瓶を俺に差し出した

「さぁ・・・お飲み・・・一滴残らず飲むんだよ」

「死を望む主の願いを叶える薬じゃ」

「陶酔の中をさ迷うのじゃ」





不死議堂 1 ・・・赤い爪の誘い




俺は死を望んでいた

死とは無限に何もない世界

黒という色さえ、白という色さえもない世界・・・何もないという言葉さえない世界

老婆が差し出した薬を飲めばそれが訪れると、その時思った






俺はあの老婆と会ってから何世紀が過ぎたのだろう

昔話で人魚の肉を食べると不老不死になるという

俺は永遠の時間をさ迷い生きながらえている

その永遠の中、人々の移り変わりは目まぐるしく

人の生き死にを幾度となく目にした

あの頃、曖昧な死を考えていた自分が陳腐に思える

やはり俺は死に取り憑かれている

ふと老婆の店の看板を思い出した・・・

「不死議堂」

その店は今は宿主を失い朽ち果てている

ポケットに手を入れコインを掴む

そのコインを朽ち果てた店に放り込む

婆さん、遅れたがこれが代金だ






 にほんブログ村 写真ブログ 心象風景写真へ
スポンサーサイト



Guide
  •  …この記事と同じカテゴリの前後記事へのページナビ
  •  …この記事の前後に投稿された記事へのページナビ
 

~ Comment ~

  ※コメントの編集用
  シークレットコメントにする (管理者のみ表示)

MENU anime_down3.gif

同じカテゴリの記事が一覧表示されます
同じタグの記事が一覧表示されます
更新月別の記事が一覧表示されます
キーワードで記事を検索