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細い糸 1 わかれ【別れ】

細い糸 1 わかれ【別れ】

「プラネタリウムを見に行きませんか・・・」

彼女は少し微笑み「いいですよ」と答えてくれた







僕は会社に行く時、少し早めに出て決まった時間に決まったベンチでタンブラーに入れた珈琲を飲んでいる

そして辞書を開く

か‐れん【可×憐】・・・

少し意味合いが違う

幼さが残る言葉だ

もっと大人で自分の意思を持っているような

せい‐そ【清×楚】・・・

少し儚いような・・・繊細で触れると壊れそうな・・・

そう、この言葉が似合う

と思い少し視線を変えた

そこにはいつもの時間に私の前を通り過ぎる女性がいた




私は重たい辞書を持ち歩く

辞書は面白い

言葉を紐解く文面は短歌のようで好きだった

たまに思いもよらない言葉が存在することにも気づく





今日も彼女が通り過ぎる

ちょうどこの時間の朝日の位置は彼女の正面を照らす

彼女が通り過ぎ、後姿を目で追うと光で透過された彼女は触れると散るような儚さを身にまとう




ある夏の日・・・

いつものように通勤途中でいつものベンチに座ろうとした時、僕の指定席にその彼女が座っていた

驚いた半面、彼女の顔を見ると少しやつれているようにも思えた

私はいつも座る隣のベンチに座った

少し居心地が悪い

それは場所が違うからというよりは彼女の存在が間近にあったからだ

そして次の日も彼女は私の指定席のベンチに座っていた

そんな日が数日続いていた

僕は彼女にとタンブラーに珈琲を入れ出かけた





しどろもどろで彼女にタンブラーを渡すと少し驚いた表情の後

「ありがとう御座います」

と返事が返ってきた

そして彼女との朝のたわいもないひと時が始まった

でも彼女はいつもどこか薄っすらとした影を持っていた




そんな日々が続いたある時

僕は思い切ってプラネタリウムを見に行こうと彼女を誘った

彼女はクスッと笑った

その笑みは初めて見る表情にも思えた




僕はその日、二つのタンブラーに珈琲を入れ出かけた

彼女は僕よりも早めに約束の場所に着いていた

彼女をプラネタリウムの会場まで案内し席に座った

そして彼女にタンブラー渡した




空間が真っ暗になり少しすると満天の星が僕らをおおった

ここのプラネタリウムは耳障りな解説は一切なく、ただ淡々と星空が移り変わる

彼女はどうしているのだろう

暗闇の中、それは見えなく、ただ一つ言えることは彼女がそこに存在するという事だけだった・・・

だったように思う・・・




やがて朝焼けと同時に会場の照明が薄ぼんやりと照らされた時

僕の隣に彼女は居なかった

偽りの満天の星々、彼女はその星をどう見ていたのだろう

彼女自体が瞬きをする零れ落ちそうな星のように思えた




細い糸 1 わかれ【別れ】





彼女の席には僕が手渡したタンブラーの代わりにラッピングされた袋が置かれていた

家に着き袋を開ける

その中にはタンブラーが入っていて

タンブラーにガーベラの柄がほどこしてあった




何となく彼女と僕は空気感というか・・・そういうものが似ている

だからこうなることも何となく感じていた




いつもの時間にいつものベンチに座り彼女の残したガーベラ柄のタンブラーで珈琲を飲む

少しいつもの味と違うほろ苦さが口の中に残る

そして辞書を開く

いちご-いちえ【一期一会】

で‐あい〔‐あひ〕【出合(い)/出会(い)】

おもい〔おもひ〕【思い/▽想い/▽念い】

わかれ【別れ】

季節が歩み秋風がページをめくる

そしてそこには彼女の姿はもうなかった






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